「野良猫ひろしを追え!」第186回サルシカ隊がいく

投稿日: 2013年01月31日(木)15:44

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写真/松原豊 奥田裕久 稲ちゃんのお母さん(冒頭の1枚)

三重県津市美里町。
その町内に1軒しかないガソリンスタンドには、伝説の猫がいる。
野良猫ひろし。

このふてぶてしいデブ猫は、なんと交通ルールを守る。
そのガソリンスタンドの前に歩行者用の信号と横断歩道があるのだが、やつは赤信号だとそこにぽつねんととどまり、そして青になるとさっそうと横断歩道を渡るのだ。

美里在住のワタクシ(サルシカ隊長)は実際にその現場を見た。
ご近所の写真師マツバラも目撃したことがあるし、他にも何人もの人がそのひろしの品行方正な様子を見かけているのである。

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そこで!!
まず動いたのは三重テレビ放送であった。
ワタクシも出演している「とっても!ワクドキ!」という番組には、ワンニャン絵日記というコーナーがあり、その名の通り、いろんなワンちゃんやニャンコちゃんに登場してもらって、ほのぼのと幸せになろう、というコーナーなのであるが、なにぶんもう5年も続いているもんだから、もうあちこちのワンニャンを出してしまって毎度ネタに困っているのだ。

信号を守る品行方正な野良猫ひろしを撮影に行こうではないか、と担当ディレクターを誘って断るわけがないのだ。
が、その担当D前田は、根本的にワレワレの話を信じていないのである。

「ま、別に猫が信号を渡らなくたって、大のおとなが野良猫を追いかけるというだけで面白いからいいですけどね」

なんて言ってやがるのだ。
キーッ!!
ホントなの!!!? 
いつも大げさに言ったり、ちょっとウソついたりしてるけど、今回はホントなの!!!

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野良猫を追いかける大のおとな・・・。
もうひとりは、写真師マツバラ(上の写真手前)であった。

念の為にいっておくが、ワレワレは決してヒマなわけではない。
原稿や締め切りに追われてヒイヒイいっているのだ。

しかし。
美里唯一のガソリンスタンド・・・ま、つまりはエネオス稲ちゃん(写真右)ところね・・・を応援する企画ならば、何を放り出してでも駆けつけぬわけにはいかぬではないか!!

そこで!
写真師マツバラとワタクシは、声高らかにビデオカメラのまえで宣言したのである。

「ワレワレは、伝説の品行方正&交通安全野良猫の、その決定的瞬間を撮影する!
そして美里唯一のガソリンスタンド、稲ちゃんとこのエネオスの活性化をはかり、ついては美里町全体を盛り上げていくのだあああああああああ・・・・・!!」

と(笑)。

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というわけで、冷たい風が吹きすさぶ1月22日。
三重テレビとサルシカ共同による「野良猫ひろし探索プロジェクト」がスタートした。

前田Dはビデオカメラ。
写真師とワタクシはスチールカメラ。
みんながみんな、カメラを構え、互いを撮影している。
なんとも間抜けな光景なのだ。

前の道を通り過ぎていくのはほとんどが知り合いである。
みんな「何をやっとるんじゃ、あいつらは」という顔をして走り去っていく。

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それにしても今回のテレビロケは力が入っているのである。
なんとカメラを2台も持ってきてるのだ。
1台をエネオスの屋根の上に設置し、定点観測するという。

なんともすごいことだ、と驚いていると、前田Dが事もなげに、

「じゃ、奥田さん、行ってきてくれますか」

という。
うぬぬぬぬ、やつはオレが高いところが苦手だと知ってそんなことを言うのである。
サルシカの取材であれば、

「ふざけるな、おまえがいけ! そして落ちろ!」

などと命令できるのであるが、悲しいかなワタクシは出演者なのだ。
カメラの前でおもしろいことをしなければ、「もうあんたいらんからね」とクビになってしまうのだ。
で、ヒイイイイとか言いながら屋根にのぼるワタクシ。
今年で48歳です(笑)。

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さあ、カメラも設置した。
あとは野良猫ひろしを待つばかり。
まずは、ひろしをよく知る稲ちゃん夫婦に話を聞いて、シャッターチャンスを待とうということになった。

野良猫ひろしの情報。
毎朝7時頃、お昼、午後3時ぐらい、そして閉店前の夜7時すぎに、ひろしはほぼ必ずエネオスへやってくる。
つまり朝めし、昼めし、おやつ、晩めしをエネオスに食べに来るのだ(笑)。

めしを食って、毛づくろいをして、あくびや屁をして、しばしのんびりしたあと、またどこかへ消えていく、という。

エネオスでガソリンを入れている人は、ほとんどがひろしの存在を知っている。
名前は知らなくても、あの白黒でデブな猫ね、と言う。

ちなみに、ひろしという名は、稲ちゃんの実弟と同じ名前である。
大飯ぐらいなところがそっくりということから、どうやら「ひろし」と名付けられたらしい。

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撮影を開始したのは午後2時であった。
3時にはおやつを食べにやってくるから、ま、1時間ぐらいアレコレ撮影して、3時になったら、ひろしを激写してメデタシメデタシ、さっさと家に帰ってビールを呑もうぜ、という作戦だったのだ。

が・・・。
ひろしは午後3時をすぎても現れなかった・・・。

「なんで来ないんだよう、なぜ今日に限ってひろしは来ないんだよう!!」

ワタクシがそう稲ちゃんを責めると、

「隊長とマツバラさんがワーキャー騒いでばかりいるから、いつもと様子が違うって思ってこないんですよ!」

などと稲ちゃんが反論する。
しごくごもっともな話であったので、鼻歌をうたいながらその場を去りごまかす(笑)。

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午後6時。
あっという間に日が暮れた。
気温も一気に下がってくる。

まったくひろしが現れないので、ワンニャンサルシカチームの3名は、周辺を歩いて探索。
稲ちゃんの奥さんのみすずが、いつもひろしが遊びに行く老人ホームなどに電話をしてくれるが、きょうは朝から姿を見ていないという・・・・。

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寒さに震えながらエネオスへ戻ってくると、稲ちゃんとみすずの仲睦まじい姿が。
Facebook上で離婚をしたり再婚をしたりを繰り返している二人であるが、基本的に仲がいいのだ。

寒空の下、野良猫を追いかけている自分たちが悲しくなってくる。

午後6時半になって、ワタクシは一度エネオスを離れることに。
妻が不在で娘が家でひとりのため、迎えにいくことになったのだ。

が、このわずか30分の離脱が、不幸のはじまりだった。
ワタクシが出て行ったあと、写真師は冷えた身体をちょっと温めようと、店内に入ったのだという。
そして熱いコーヒーを口にした途端・・・・。
外から「にゃー」という声が聞こえたのだという。

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ビデオカメラを担いだ前田Dと一眼レフを持った写真師が外に飛び出したときには、すでにひろしは敷地内を歩いていた。

「餌くで~、にゃ~、餌くで~、にゃ~」

と、稲ちゃんのお母さんのところにまっしぐらであったという。

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写真師は狂ったようにシャッターを切った。
前田Dはビデオカメラでぐいぐいひろしに迫った。

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それがよほど迷惑であったのだろう。
しかもそこに隊長のワタクシが戻ってきて、「あ、ひろし来た!? ひろし来た!!?」と、ますます騒ぐものだから、ひろしはまったく寛ぐことなく、よっこらしょと身を起こして帰り支度をはじめたのだ。

「ひろしが帰るぞ!!」
「信号だ!」
「横断歩道を渡るぞ!!!」

ワレワレはバタバタとひろしのあとを追った。

が・・・・・。

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野良猫ひろし。
やつはふてぶてしく、「けっ」とワレワレに一瞥を残しつつ、横断歩道を渡らず、交差点を斜めに横切った。
しかも車が通っていないことをいいことに完全信号無視だった・・・・。

「ああああ、いっちゃう!! ひろしがいっちゃう!!!」

写真師はひろしの後ろ姿をバシャバシャ撮り続ける。

「こっち向いて! 出来たらこっち戻ってきて!! お願い! 信号渡って!!!」

彼は野良猫に懇願していた(笑)。
が、ひろしは、そんな写真師を振り返ることもなく、山へと消えたのだ。

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「・・・・・・・・・・・・」

写真師は明らかに落ち込んでいた。

「後ろ姿でも撮れたんだからいいじゃん。信号は守ってなかったけど、一応交差点を渡ったんだし・・・。もう寒いし、帰ろうよ」

いつになくワタクシがやさしく言うと、写真師は「ダメ!!」と言い張るのだ。

「このままテレビに放送されたり、サルシカに公開されたら、シャッターチャンスに弱い男として定着しちゃうじゃん! 仕事こなくなるじゃん!! だからダメ!! 絶対ひろし撮る!!!」

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それから写真師マツバラは7時半までねばった。
差し入れのおにぎりと肉まんを頬ぼりながら、張り込みを続けた。

が、7時半を少し過ぎた所で、閉店のため看板などの照明が落ちる。

「ああああああああああああ!」

暗闇に、写真師マツバラの悲鳴が響き渡ったのであった。