第54回「隊長、ナローゲージに揺られる⑤〜赤錆の町に酔う〜」

投稿日: 2013年06月27日(木)10:00

提供:ゲンキ3ネット

四日市から内部をつなぐ路線距離わずか7キロのナローゲージ(特殊狭軌線)、近鉄内部線。
その小さな電車は、立ち並ぶ家々のあいだを、田園風景の中を、学生鞄をもった若い男女や買い物かごをもったおばあちゃんを乗せてトコトコと走る。
今回はこの内部線を完全制覇!! ひたすら電車に乗って歩く!!

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いよいよ内部線をめぐる旅も終盤である。
四日市駅からひとつ目でありながら、今回最後の駅となった赤堀駅に降り立った。

赤い。
駅のまわりが赤錆ている。

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赤堀は赤錆の町であった。
赤く味のある下町風情の町並みの向こうに、四日市中心地のビル群が見える。

「いいねいいねいいねえ〜!!!」

写真師マツバラはコーフンして赤い町を撮り続けている。
まさに彼の好物的光景である。

四日市の繁華街とビルの森のすぐ足下にある町、通り過ぎる町、昭和の匂いが錆に覆われて残された町。

その赤堀を歩く。
何もない。
店があってもずいぶん昔にシャッターを下ろしたまま眠っているところばかりだ。

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「プロも認めた隠し味!」
「60年の実績の調味料!」

そんな文字が目に飛び込んできた。
例によってシャッターの降りた駐車場みたいなところだが、その貼り紙も建物もそんなに古くない。

奥にごく普通の家屋がある。
その玄関にも「お気軽にどうぞ!」と貼り紙がしてある。

「うーむ」玄関のまえでワタクシは静かにうなった。
「お気軽にどうぞ、って、遠慮なく訪ねろってことかね、これは」
「まあ一般的に判断すればそうでしょう」と写真師。

とはいえ、普通の家なのである。
見ず知らずの人のおうちなのである。
いきなり「どうもどうもどうも〜」と訪ねてよいものなのか。
しかし、プロも認める秘伝の調味料とは何なのか。
気になって気になって仕方がない。

で、ワタクシは勇気をふるってピンポンした。
「はーい」奥から女性の声がしてドタドタと走る音。
まさに家事の手をとめて、不意のお客さんを迎えるがのごとく状況である。

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対応してくれたのは奥さんであった。
ご主人は外出中とのこと。

「あのその、外に貼ってある調味料の貼り紙をみてたずねさせていただいたんですが、よかったんでしょうか?」
「ええ、まあ販売してますので」
「ここでいいんですか」
「ええ、ここで」

ここ、というのは玄関先である(笑)。
どうも何やら自分が押し売りみたいな気分になって仕方ない。
落ち着かない。

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これが、四日市赤堀が生んだ、うま味調味料「この味」。
かつお、こんぶ、椎茸の「うまみ成分」と「塩」でつくられているそうだ。
なめさせていただくとしょっぱい。
確かにそのあとうまみが舌先にやってくる。

「この味」は、昭和28年(1953年)の創業以来、業務用として販売されてきたもの。
四日市市内のお店はもちろんのこと、愛知や岐阜のうどん屋さん、料理屋さんでも利用されているそうだ。

>>「この味」の詳細はこちら!

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それにしても何とも不思議ではないか。
地域の味として、超ローカルな調味料があるなんて。
きっとこの味がソウルフードという人もいるんだろうなあ・・・。

そんな話をしながら、写真師マツバラと共に線路沿いの道を歩いた。
軽い音を立てて内部線が走りすぎていく。
もう四日市の市街地は目と鼻の先だ。

このまま旅は終わってしまうのか。
ちょっと寂しいなあ、と思っていたとき、写真師が素っ頓狂な声を出した。

「あ、思い出した!!
 ここはケロリン(銭湯企画リーダーです)といっしょに来たことがある!!
 いい店があるよ、隊長、すごくいい店!!
 やっぱり旅の締めは、ビールでしょ、ビール!!
 あと唄でしょ、唄!!
 行く? ねえ行っちゃう??」

なんだかよくわからんが、ケーハク丸出しの誘いなのである。
もう自分がビールが飲みたくて呑みたくてたまらないのである。
まったくもう・・・と言いつつも、歩みを早めてしまうワタクシなのであった(笑)。

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その店とは、沖縄料理のサスケ。
外観の色使いからして、いかにも南国の雰囲気なのである。

まだ営業前でノレンが出ていなかったが、顔をのぞかせると、こころよく中に通してくれた。

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「まだ陽も落ちていないのにみなさん申し訳ない!!」

と言いつつ、オリオンビールをグイッ!
くぉおおおおおおお、うまい!!
淡白なビールがのどに染み渡る〜。

酒のあてはラフテー。
これはたまらぬ。
ビールをのみ、食べ、のみ、食べ、のみたべのみたべのみたべ、あああきりがない(笑)。

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きょう1日がんばって取材したご褒美。
旅の最後にふさわしい1杯。
そして、多良間島で生まれ、石垣島で育ったおとうちゃんが「じゃあまだ早いけど」と三線を肩にかける。

おおおおお、ここで沖縄の音楽が聴けるとは。

「僕のね、妹はね、BEGINと同級生だからね、僕はね、BEGINのお兄さん」

まあ顔は似てるけど・・・(笑)。

「でね、僕は柔道をずっとやっててね、具志堅用高は僕の2年年下の後輩」

あの、歌に関係ありませんけど。
ま、しかし、いかにも「沖縄!」という顔をしたおとうちゃんはコブシを効かせて歌う。
あー、それそれ!

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「アルコール度数60度を超える壺酒あるんだけど、呑む?」

おとうちゃんはワレワレの返事を確認するまでもなく徳利にそそいでいる。

「あ、いやね、一応これも取材だから、まだちゃんと終わるまでこれは・・・」

「ちょっとぐらい大丈夫大丈夫!
 あ、じゃあこれもいこうか、ハブ酒だよ、ハブ酒!!」

ひえええええええ!!
こうしてワタクシと写真師はズブズブにはまっていくのであった。

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酔ったいきおいでこんなTシャツも購入(笑)。

四日市で沖縄料理といえばココ!
といった存在のお店であるらしい。

食材やお酒はほぼ毎日沖縄から仕入れているらしい。
この日も、歯ごたえのある海ぶどうをふるまってくれた。

人気のお店なのでなるべくなら予約をしたほうがよさそうだ。
夕暮れとともにお客さんがどんどん入ってきた。

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そして店の入口で記念撮影。
え、デザイナー前川がいるじゃないかって?
はい、彼はずっと付き合ってくれて、しかも飲めない酒まで飲んでました(笑)。
本当に仕事はいいのでしょうか。

このあと、ほろ酔い加減で四日市まで歩いた。
仕事を終えたサラリーマンたちが足早に歩いている。
町に明かりが入りはじめた。

「終わりやね」

ワタクシは写真師マツバラに宣言した。
さて、サスケに戻ろう(笑)。

撮影:松原 豊