写真/やまぴー 文/サルシカ隊長
「トイレ」と「パン」。
普通はあまり並ばない単語が至近距離で並んでしまうのがサルシカ秘密基地である(笑)。
秘密基地に水洗トイレをつくるイベントの初日。
工事は順調に進んでいた。
10時を過ぎた頃から、石窯に火を入れ、どんどん温度をあげてきた。
お昼の直前、この日のために購入した放射温度計(レーザーを当てて温度をはかるんだぞ〜)で窯の温度を計ってみたところ、なんと計測不能。
計測温度500度と書いてあるので、それ以上になってしまっているわけである。
いくら何でも熱すぎなので、燃えている薪を取り出して温度を下げる。
そして計測可能な400度台に入ったところで、いざピザ投入!!!
ひゃ〜、写真をみてるだけでよだれが出てくる〜。
われわれサルシカ隊は、この秘密基地のオープニングイベント(ではなぜいま工事してるのだ?笑)で、なんと160枚のピザを焼いたのだ。
もうみんなプロ級の腕前なのである。
窯の温度が高いので1分もしないうちにピザは焼きあがる。
くつくつとチーズが煮え、ピザ生地はパリパリに焼けている。
この日焼いたピザはおよそ30枚。
参加者全員で食べ尽くした。
お腹がくちたおっさんたちは穏やかに静かである。
つまり眠いのだ(笑)。
それぞれにまったりとした昼を過ごす。
そしておっさん共が「さあやるか!」「おおやるべやるべ!」と立ち上がった頃、女性陣たちによるパン焼きがはじまった。
今回は、「めぐみごはん」を連載してくれているメグーと、新隊員のMioさんがパン生地を作ってきてくれた。
どちらも天然酵母で発酵させたもの。
一度は石窯で焼いてみたいと自ら志願してくれたのだ。
窯の温度が230度近くに落ちた頃、パン生地を入れる。
そして今回がデビューとなる鉄のフタでかぽっとはめる。
これは、いまや「トイレの神様」として有名になってしまった前田隊員がつくってくれたものである。
彼の本業はこの鉄関係なのである。
ヒビコレ女将が「おほほほほ」となぜか魔女笑いをしながらやってくる。
そもそも今回は、お昼近くなったところからぞくぞくと女性たちがやってきたのである。
ふだんの秘密基地工事だと寄り付きもしないくせに、パンを焼くと言ったら、もう匂いに引きつけられたかのようにやってくるのだ。
パンの力、恐るべし、である。
パンが焼けるまでの間。
女性陣はトイレ工事を手伝うことなどまったくなく、みんなでおしゃべり(笑)。
ここでもなぜかヒビコレ女将が「おほほほほ」と魔女笑いをしている。
よほどパンを焼くのがうれしいのか。
自信があるのか。
しかしこのあと、彼女にトンデモナイ不幸が襲いかかることを、この時点では誰も知らない(笑)。
で、30分ほどして、パンが焼けた〜!!!!
隊長のワタクシはトイレ工事をしながら、実は真っ黒焦げのパンとか生焼けのパンを期待していた。
はじめての挑戦でうまくいったら面白くないではないか。
が、彼女たちは企画を盛り上げようともせず、初回から見事にパンを焼き上げたのだ。
見よ、この見事に焼きあがったパンを!!
「きゃ〜〜」
「うわ〜、お店で売ってるパンみたい〜」
「すごくいい香り〜」
自画自賛でおおいに盛り上がっているのである(笑)。
みよ、このメグーの笑顔を。
「うわ〜、表面パリパリで、中はしっとり〜」
なんだか焼きたてのパンは女性たちをメルヘンの世界へと連れていくらしい。
年を忘れてワーキャー言っておるのだ(笑)。
そして男性陣もトイレづくりの手をとめて休憩。
焼きたてパンがおやつだ。
「おおおおお〜、うんめい!」
「お店で買うよりうまい!」
「ワインとチーズを持ってこい!」
「もう工事やめじゃ!」
どうやら焼きたてのパンはおじさんたちもイケナイ人にしてしまうらしい(笑)。
パンの匂いに包まれた幸せなひととき。
それは長く続かなかった。
メグーのパンを焼き、家田さんのパンを焼き、みんなから拍手喝采を受けたあと、不幸は起きた。
それはもう事前から予期できたことであったのだ。
そのパン生地はあまりにも膨らんでおらず、疲れ果てたナマコのようにくったりしていた。
「大丈夫なの、これ・・・」
何人かの女性はその生地をみて不安に思ったという。
疲れ果てたナマコをつくってきたのは、写真師マツバラの妻であり、ヒビコレ女将の由貴子であった。
もうここからは呼び捨てなのである(笑)。
由貴子は半年ほどまえにメグーから天然酵母をわけてもらい、一応育ててきたらしい。
一応と書いたのは、かなりの放置プレイもあったからである。
彼女は夫も酵母も放置するのだ。
由貴子はその天然酵母で生地を練り、なぜ発酵しないのか不思議に思いながら基地へと持ってきた。
暖かいところでどれだけ寝かせてもナマコはナマコであった。
そしてついに、その物体は窯の中へと投入された。
待つこと30分。
窯から出てきたのは、入れたときと同じ体勢のままの焼きナマコであった。
しかもずっしりと重い。
メグーやM子はその時点で笑いを噛み殺していたという。
明らかにそれは異形のパンであった。
一応切ってみた。
こんなにナイフを通さないパンがあっていいのか。
密度が高くていいのか。
そして取り分けてというかこわごわと一切れずつみんなで口に運んだ。
「・・・・・」
誰もが沈黙であった。
そこに、炎に包まれ敗れ去る魔女のような甲高い笑い声が響いた。
「なんでこーなるのぉ、おほほほほほほほほほ!!!」
それはわれわれが聞きたいセリフである(笑)。
すっぱく重いパンを食べた男性陣はトイレ工事へと戻った。
しばらく誰も口を開かなかった。
「間違いなく酵母が死んでましたね・・・」
食通のちえぞーさんがつぶやいた。
このような不幸を乗り越えつつ、われわれはトイレをつくりつづけたのである。
次回へつづく。