写真/やまぴー テキスト/サルシカ隊長
「中谷さんのおうちをつくろう」プロジェクトの山場である2日間の大工事も、あと残すところ2時間半となった。
ここからいよいよ仕上げである。
これまでこつこつと作ってきた壁や天井を組み立てていく。
一気に中谷ハウスの全容があらわになっていくのだ。
天井を固定したあと、ドアの開口部がある前面の壁を取り付ける。
まさに工事のクライマックスと呼べる瞬間だ。
全員で力を合わせ、声をあげ、慎重に進めていく。
われわれが壁や天井の作業をしている間、秘密基地の棟梁である大工のT橋は、少し離れたところでひとり黙々と屋根づくりをしていた。
実はこの天井こそ、カットの角度、そして細工が必要なむずかしい作業であった。
だからこそプロであるT橋に任せたのだ。
天井と壁の作業が終わるやいなや、大工のT橋が、
「もう屋根の基本部分が出来ているので、みんなであげてもらえますか?」
と、さりげなく言ったもんだから、もう他のメンバーは、
「おおおおお、さすがプロの大工さん!」
「仕事が早い!」
「見上げた男だ!!」
「すごいぞ、T橋!!」
と、大盛りあがりであった。
かつて、秘密基地の工事に入る前は寡黙な男であった大工のT橋。
以前の彼であれば、「プロなら当たり前のことですから」と小さな声でぼそっと言い、少し恥ずかしそうに作業に戻ったであろう。
が、2年の秘密基地工事でヘラヘラ化した彼は、
「あはははははははは、だってプロだからねぇ、これぐらはトーゼントーゼン! え、そんなにすごい? あはははははは、まいったなあ、オレってそんなにすごいぃ??」
と、果てしなく笑うのだ。
が・・・・・。
「T橋さん、なんかここ、ずいぶんはみ出してますけど・・・・間違えてません?」
トイレの前田さんが申し訳なさそうにいった。
確かに、壁から屋根が15センチほどはみだしている。
前田さんが壁に揃えようとすると、反対側から「おおーい、押しすぎだあ、こっちがはみ出したあ!」と声。
つまり、完全に屋根のサイズがオーバーしているということだ。
「おかしいなあ・・・ちゃんと計算したんだけどなあ、なんでだろうなあ」
大工のT橋は一瞬真顔になり、はみ出した屋根の部分を見つめたが、やがていつものヘラヘラ顔になり、
「まあ、いいや、ここで切っちゃったらいいんですから、あはははははは、もうここで作業しちゃいますよ、あははははは」
で、のこぎりでギコギコ屋根を切りはじめた。
こんなバカなことをやっているのに、写真で見ると、その姿が格好いいのが悔しい(笑)
大工のT橋が補修した屋根の骨組み部分に屋根の下地の板を打ちつけていく。
高いところが苦手な隊長のワタクシも屋根にあがってトンカン。
他のチームは壁の角の仕上げ。
4ヶ所あるので、分散してみんなで仕上げていく。
さて、今回の工事にあたって、中谷の父ちゃんは密かにこんなお餅を用意していた。
家の棟上げの際、施主が棟にあがって餅をまく習慣がある。
それをこの小屋でもやろうと考えていたのだ。
近所の人に顔を合わせるたびに話しており、ネットの告知にも3時には餅まきをやるよ、と書いてあった。
だから2日目の3時までには棟上げというか屋根が出来上がっていなければならなかったのだ。
予定の時間までになんとか屋根に登れるようになった。
が、時刻になっても誰もこない。
前川さんとサナエッティー夫妻、そして新隊員の「おかわり水谷」が子どもを連れて遊びにきてくれたが、どうやら餅まきを期待しての様子ではない。
傷心の中谷の父ちゃん。
あのね、こんな小屋で餅まきをするなんて、みんなネタだと思うよ。
隊長のオレだって本当にやるとは思わなかったもん。
参加してくれた人のおみやげだと思ってたよ。
そんなワタクシの言葉に、中谷の父ちゃんはどんどんいじけていくのである(笑)。
遅い午後の休憩を終え、最後の屋根材を貼る作業に入る。
大きな黒いサロンパスがグルグルまきになっているようなもので、粘着面はネバネバ。
コールタールの臭いがする。
これが下地材にしっかり入り込み、雨漏りを防ぐのだという!
なんともハイテクな屋根材なのである。
貼るだけであるが、これがなかなか難しい。
コツがいる。
これは中谷の父ちゃんと大工のT橋が中心となり作業。
トイレ前田と隊長のワタクシがそれをヘルプした。
残りのメンバーは壁の角の仕上げ。
そして後片付けに入っていた。
そして夕方5時過ぎ。
予定されていた工事はすべて終わった。
計画通り、中谷ハウスの工事は終了したのだ。
窓はまだないし、扉もついていない。
内装もまだ。
が、もう雨露はしのげる。
立派な小屋なのである。
この家の主となる中谷のとうちゃん、そして隊長のワタクシは、感慨深くその小屋を見つめた。
小屋の原型が出来上がり、そこへいくための橋ができた。
自分たちで橋をかけるなんてなかなか経験できることではない。
自分が暮らす家を、たくさんの仲間といっしょにつくりあげるなんて誰にでもできることではないのだ。
またひとつ、夢が叶い、サルシカの伝説が生まれた。
その夜も宴会になった。
日曜日の夜だから少人数になってしまったけれど、しみじみと盛り上がった宴会であった。
藤ヶ丘食堂でテイクアウトしてきた若鶏を焼いた。
スーパーで買ってきた惣菜のたこ焼きも唐揚げも焼いた。
若鶏の味噌だれが香ばしく、そして「これでもか!」というぐらい煙をあげた。
「みんな、本当にありがとうございました!」
まじめな顔をして頭を深々と下げた中谷のとうちゃんが顔をあげたとき、その目が濡れていた。
たぶん煙が目に染みたのであろう。
ひとり帰り、またひとり帰り、ついに秘密基地には中谷のとうちゃんと隊長のワタクシのふたりになった。
水が張られた近くの田んぼからカエルの声が聞こえた。
涼しい夜の風が吹いていた。
「そろそろ僕らも寝ますか」
ワタクシが立ち上がると、中谷のとうちゃんも立ち上がり、そして手を差し出した。
ふたりでがっしり握手した。
昼間の汗が、夜風の中で匂った。
男の匂いだ。
こうして2日間の戦いは終わった・・・・。
今回の工事に参加、協力いただいたみなさまに、中谷に代わって感謝申し上げます。
ありがとうございました!!