写真/写真師マツバラ(松原豊) テキスト/サルシカ隊長(奥田裕久)
志摩を定期船でめぐる旅。
賢島から人口110人の間崎島へ渡り、わずか50分の島巡りを終えて、今度は英虞湾の反対側の和具へ向かう。
今度も10分ちょっとの船旅。
定期船は凪いでいる海を切り裂いて走る。
船の中はエアコンが効いていて快適。
先ほどまで「ビールビールビール!」と喚いていたおじさんたちも、おだやかにニコやかになる。
志摩市和具は、カマキリがカマを折りたたんだような形の前島半島(さきしまはんとう)の中心的集落で、鳥羽の菅島や相差(おうさつ)に次いで海女さんが多いところだという。
また伊勢海老の刺し網漁が盛んで、年に一度『伊勢海老刺し網オーナー体験』などという魅力的なイベントも開催している。
>>伊勢海老刺し網オーナー体験のレポートを見る。
・その1
・その2
和具の定期船のりばを出て記念撮影。
定期船の時間をメモしているバイクのお母さんがいた。
「車だと半島をぐるっと回って賢島にいかなきゃダメでしょ。船のほうが早いからね」
船で賢島へいく理由をお母さんは話してくれた。
船が生活の足として使われていた頃、定期船のりばの前から伸びている通りは人で溢れ、店も今より多く、それはそれは活気があったという。
かつて賑やかであったという通りを歩いて行く。
和具からバスに乗って前島半島の先っぽの御座まで行き、そこからまた定期船で浜島へと渡る予定である。
バス通りまでは歩いて行くしかないのだ。
確かにもう賑わいはないけれど、その名残が色濃く残されている。
どんな人がここを往来していたのであろう。
地域の人びとの暮らしを支える小さな商店がいくつも残っている。
乳母車みたいなのを押したおばあちゃんがのんびり買い物をしている。
いま、地元で買い物ができるところはどんどん少なくなっている。
少なくともここは恵まれた場所である。
ご近所のひとたちが笑って語らいながら夜のおかずを選んでいる。
ふらふら歩いていると、一台の車が停まって「奥田さん!」と声をかけられた。
テレビの取材で何度かお世話になり、上記の伊勢海老刺し網オーナー体験のときもお世話になった「いそぶえ会」の伊藤さんだった。
いそぶえ会は、志摩市内の旅館、飲食店、真珠販売業、主婦などの女性グループによる、志摩の海の幸を使った料理の開発、そして消えつつある郷土料理をいまに残すことを目的とした会。
伊藤さんは和洲閣という宿の女将さんだった。
残念ながら数年前にその宿を閉じられてしまったが、現在も地元志摩のためにさまざまな活動をしている方なのだ。
電車に乗り、定期船を乗り継いでやってきたこっちとしては、ずいぶん遠くへやってきた気分であったが、車だとそれこそあっという間にやってきてしまう場所なのであった。
「きょうも取材?」伊藤さんはいつも笑顔。
「いつも志摩のことを取材してくれてありがとうね」そしてこちらのことをいつも気遣ってくれる。
後ろから車がやってきたので、残念ながら再会はあっという間に終わった。
そこからまたしばらく歩くと、ご近所さんたちが集まっている店があった。
たい焼きの太田屋とある。
店の中から甘くこおばしい匂いが漂ってきた。
時計をみると、もうお昼前。
食べたいのはどっちかというと、本物の鯛で、しかも焼いていない生のお刺身なんかがよくて、もっといえばビールがあると最高なんだけれど、その匂いには抗えなかった(笑)。
おじさんたちは店に突入。
たい焼き太田屋のご主人は、気さくないい人であった。
写真を撮っていいかと聞くと、もうどんどん撮ってくれという(笑)。
ご主人はたい焼きを焼いて45年!!
この道を極めた男である。
昔は真珠の養殖もやっていて、その仕事の合間にたい焼きを焼いていたが、いまはこちらが専業である。
なんとこちらは金型ひとつずつで焼く、天然系。
もはや希少な存在である。
その金型を触らせてもらって大喜びのケロリン桶太郎。
彼は銭湯研究家であるが、実はたい焼きの研究家というかマニアでもあるのだ。
1つ1つ丁寧につくる。
時間はかかるけれど、そのぶんお父さんと楽しい話ができる。
子門真人の「およげたい焼きくん」が流行った時は、もう休むヒマがないほどたい焼きを焼き続けたという話。
ドイツのテレビ局が真珠の取材にやってきて、ふらりと訪ねたのがこのお店で、生まれて初めて食べたたい焼きにいたく感動し、
「Es schmeckt gut! エス シュメックト・グート!」
と叫んだ話とか。
その証拠に、ドイツ語のサインが残されていた。
太田屋はたい焼き屋であるものの、お昼に手こね寿司や漬物を販売している。
が、それは人気で午前中にほとんど売り切れてしまうそうだ。
この日も残念ながらすべて売り切れてしまっていた。
「ほい、焼けたよ〜」
アチアチのたい焼きを小さな袋に入れてもらって、その場で頬張った。
衣はパリパリのサクサク、アンコはもっちり。
衣の甘さは匂いで楽しみ、アンコの甘さは舌で楽しむって感じか。
とにかくうまい!
われわれが店前でたい焼きを食べている間に、小さなドラマがあった。
お客さんのお母さんが10円のお釣りをもらい忘れて、お父さんは大声を出して追いかける。
「もういいから!」「受け取れん!」の一悶着がある(笑)。
しばらくして10円を受け取ったお母さんが、さっきのお礼だといって自家製の野菜をお父さんに届けにくる・・・。
なんと素晴らしい地域であることか。
われわれはたい焼き屋で人生の素晴らしさを学んだのだ。
たい焼きの太田屋
住所:三重県志摩市志摩町和具1939
電話:0599-85-6607
営業:9:30~17:00(年中無休)
うーむ、すまぬ。
もう3回めなのにまだ銭湯が出てこない。
次回こそ、本当に出るというか入ります!(笑)