写真/松原豊(写真師マツバラ) テキスト/サルシカ隊長
三重県津市。
経ヶ峰の山すそにある小さな地域、美里町。
かつて村とよばれたその町の人口はわずか3500人。
3つある小学校は来年すべて消滅し、津市内初の小中一貫校として、現在の中学校に統合されることが決まっている。
その町内唯一の中学校である美里中学校の今年(2016年)の卒業生は24名。
実はその中には、サルシカ理事のエネオス稲ちゃんの娘さんや、サルシカ宴会部のムネちゃんの息子、そして隊長であるわたくしの娘もいた。
物語は昨年(2015年)の12月からはじまる。
「子どもたちにサプライズで何かイベントをしたい」
そんな話をはじめたのは、サルシカ宴会部のムネちゃんであった。
(写真中央にいるおっさんね。笑)
美里中学校の3年生は24人。
1クラス。
中学に入って3年間、ずっと同じ仲間で学び、学校生活を送ってきた。
修学旅行もいっしょにいったし、文化祭でいっしょにお芝居をしたし、そして歌もうたった。
24人しかいないと、仲間はずれとかいじめとかやりようがない(笑)。
それ以前にこの学年は男女を問わず本当にみんな仲がよかった。
「学校が楽しくて楽しくてたまらない」
そんな子どもたちの声に、親はどれだけ安心し、喜び、感動をしたことか。
そして、子どもたち24人の芝居や歌に、どれだけ涙したことか。
「子どもたちに感謝の気持ちを込めて、サプライズでなにかを贈りたい・・・」
ムネちゃんは息子の同級生の父親であり、そして自身の同級生である福ちゃんにまず相談した。
福ちゃんはPTA会長をつとめていた清水さんに相談。
そしてムネちゃん、福ちゃん、清水さんの3人が、何かやるならサルシカの奥田だろう、ということでわたくしに相談。
話はとんとん進み、まずは24人の保護者全員が秘密裏に集まり、打ち合わせをしようということになった。
そして2015年12月13日の日曜日の夜。
美里の最深部にあるサルシカ秘密基地に、仕事で都合がつかなかった数軒をのぞき、ほとんどの親たちが、飲み会という名目で集まった。
もうこの時点ですごいのだ。
中学3年の保護者が全員集まり、酒を飲み、子どもたちへのサプライズ企画を共に考えるなんて、やりたくてもできることじゃない。
小さい学校だからできたのではあるが、子どもたちの結束力の強さは、親たちのつながりも強固なものにしたのである。
そこで、わたくしは提案をさせてもらった。
こんな小さな山里なのに、この美里には劇場がある。
地域に根ざした劇団が存在する。
子どもたちは文化祭やイベントでその劇団にお世話になっている。
であれば、劇場のある美里でしかできないサプライズをやろう!
そう、お芝居を親全員でやろうじゃないか!!
しかも、
親が24人の子どもを演じる。
舞台は学校。
子どもたちが3年の間に体験した素敵な思い出を芝居として再現しよう!!!
そんな提案だった。
誰もお芝居なんかしたことがない。
ハードルの高い提案だと思っていた。
が、誰ひとり迷うことなく、満場一致で「やろう!」ということになった。
そして、
それぞれの家庭で、中学生活で得た面白いエピソードをひとつかふたつまとめること・・・という宿題をそれぞれ持ち帰り、2015年が終わったのであった。
年が明けて2016年1月。
成人式周辺の休日の夜。
再び、保護者全員がサルシカ秘密基地に集まった。
みんなでつまみや酒を持ち寄り、宴会をしながら、それぞれのエピソードを物語として組み立てていく。
部活、修学旅行・・・などなど、まとめられるエピソードはまとめ、またそれをつないでいく。
そこには、美里の劇場「テアトル・デュ・ベルヴィル」を運営する劇団「第七劇場」の主宰者である鳴海康平さんにも参加してもらった。
われわれがやりたいこと、お芝居の内容を伝えると、二つ返事で協力してくれることになった。
世界をまたに活躍する劇団が、われわれのサプライズ芝居をサポートしてくれるのだ。
物語の骨組みを組み立て、芝居としての仕掛けを鳴海さんに相談しつつ、おおよその形にしていった。
そこから、わたくしが脚本にしていくことになった。
こう見えても、わたくしは一応テレビの構成作家が本業である。
かつてはドラマの脚本も書いたことがあるのだ。
そして、2月の上旬。
24人の子どもたちの思い出が1本の芝居になった。
上演時間45分におよぶ超大作である(笑)。
2月21日の土曜日。
美里の劇場ベルヴィルにほとんどの保護者がひそかに終結。
台本はすでにみんなに渡してあった。
最初で最後のリハーサル。
なんと本番までにこの1回しか全員で練習をしないのである。
本当はもっともっとやりたいけれど、全員が集まるのは難しいし、さすがに子どもたちに怪しまれる(笑)。
この日は第七劇場の劇団員である小菅くんと伊吹との顔合わせも。
芝居は、最初、この小菅くんと伊吹くんによって展開する。
親は子どもたちといっしょに客席に座っている。
実はこの時点では、親が芝居に参加することは子どもたちは知らない。
あるところから、親がひとり、ふたり、と芝居に参加していくのだ。
鳴海さんによる演技指導。
親たちはみんな完全棒読み状態(笑)。
それはそれで面白いが、まったく芝居になっていない。
こんなことで大丈夫なのであろうか。
しかもきょうで練習は終わりなのだ(笑)。
問題山積。
でも、あまり深く考えずまた宴会(笑)。
つまり親たちは集まって飲んでばかりいる。
3月8日。
ついに中学校の卒業式。
実はこの時も、あちこちでコソコソとサプライズの打ち合わせが行われ、また担任の先生のビデオ撮影などが行われていた。
そしていよいよ3月12日。
サプライズイベント当日。
昼から何人かの保護者が劇場ベルヴィルに集まり、パートごとのリハーサル。
あと、準備が進めらた。
こちらはサプライズ演劇のあとにそのまま劇場で開催される卒業パーティの準備。
子どもは24人しかいないが、保護者や兄弟、先生を入れると80名以上の参加者になるから、もう買い物だけでも大変!!
サルシカチームも出動!!
こちらはカレーの買い出し!!
カレー100人前!
ごはんは6升炊く予定(笑)。
舞台では最後の調整がつづく。
照明、音楽、効果音、すべてが本格的。
いっさい手を抜かず、本気の芝居である。
次回、いよいよ舞台の幕開け!
サプライズ芝居の全容があきらかになる!!!