ポポくんはまだ日本にいたのだ。
昨年、発作的に秘密基地に出現した謎の留学生。
生活は豊かでなく、あるラーメン店でアルバイトをしつつ勉強に励む毎日。
が、ある時、ラーメンづくりを店主にまかされたポポくんは、ラーメンづくりの面白さ、魅力に気づく。
「日本のおいしいラーメンを、いつか自分の国に持ち帰りたい・・・
お父さんお母さん、そして14人いる妹や弟たちに食べさせたい・・・・」
その日から、ポポくんの特訓がはじまった。
店主の技を目で盗み、それを夜な夜な試す日々。
「もっとおいしく!」
「さらにおいしく!」
「もっと!」
「もっと!!!」
「もっっっと〜〜〜!!!!!」
ポポくんはぎょろりとした目を剥き、茹であがった麺の湯切りをしながら叫ぶのであった。
で・・・。
いつのまにか腕をあげたポポくんは、昨年11月におばんざいバルすみすとコラボレーションして、サルシカ秘密基地で居酒屋ラーメン「ポポ&すみす」を1日限定で開店。
大勢の人で賑わい調子に乗って、今度は伊賀のうどん屋「池澤湯」とコラボして限定出店。
新聞にまで載ってしまってすっかり有名人になりつつあるのだ。
そんなポポくんにまた出店依頼がきた。
津市美杉町の太郎生。
津の市街地から車で1時間はかかるところである。
前夜。
サルシカは津市大門大通り商店街のイベント「プレミアムフライデーin大門」に参加。
キャンプバー・ランタンや歌声サロンまりりんで打ち上げしてしまって、もうズブドロ状態(笑)。
隊長のわたくしは、おばんざいバルすみすの女将に拾われてなんとか山の自宅に帰宅。
当然、午前様。
車は町に置いたまま。
意識を失うように眠り、目覚ましで飛び起きたら、もうそのまま美杉へと移動なのだ。
わたくしの人生はこれでいいのか。
勝手におまえがやってるんだから知らんがな、と言われれば、まさにその通りなので返す言葉もない(笑)。
わたくしが暮らすのは三重県津市美里町である。
で、向かっているのは美杉町。
よく間違えられるが、結構距離がある。
津市の西端と南端って感じであろうか。
美杉町は、映画「ウッジョブ」の舞台になったところで、名松線が奇跡の復活をして話題になったところである。
まあどんぐりの背ぇ比べではあるが、知名度は美杉の方が上であろう。
が、町に近いのは美里。
美杉は広く、最深部になると果てしなく遠い。
とくに遠いのが、今回向かった美杉町の太郎生(たろお)。
なんたってあなた!
津市の市街地から向かうと、いったん奈良県に入らないと到達できないのだ。
ナビに従って走っていくと、「奈良県」の表示が出る。
あらららら、行き過ぎちゃった、と思う。
が、間違ってはいないのだ。
奈良県御杖村の道をかなり走る。
みつえ温泉「姫石(ひめし)の湯」がある道の駅「伊勢本街道 御杖」も通り過ぎる。
そうなのだ。
同じ津市内の町へいくのに、その道中で奈良県の温泉に入ることができるのである。
美里を出ておよそ1時間。
太郎生に到着。
ポポくんラーメンが限定営業するのは、こちらのコミュニティスペース「ようこそ」。
平成28年3月24日にオープンした食事処であり、観光案内の拠点。そして田舎体験施設でもある。
農林業・田舎体験案内、ジビエを使った津ぎょうざやカレーの提供、地域内周遊のための電動アシスト自転車レンタル、山野草販売、企業と太郎生地域との連携活動相談などを行っている。
「ようこそ」の運営をしているのが、山崎さん(写真左)。
地域活性化やコミュニティ・ビジネスをさまざまなところで学び、奥さんの実家があるこの太郎生で活動している。
その流れで、ポポくんに出店を依頼したのである。
ポポくんラーメン出店のチラシが店のまわりに。
そして太郎生の町の掲示板や田んぼの中の看板など、本当にあちこちに貼られていた。
山崎さんが地域の人に一生懸命宣伝してくれたことがわかる。
この集落でアツアツのラーメンを食べさせるお店はない。
そんな機会を地域のひとに味わってもらいたかったのであろう。
みんなの期待は裏切れない、と、オープンの2時間以上前に太郎生に入り、準備を続けてきたポポくん。
実はこの2日前から、サルシカ秘密基地でじっくりと仕込みを続けてきたのだ。
そしていよいよ開店時間。
関係者や噂を聞きつけた人たちが8名ほどすでに店内にいた。
「ねえねえ、せっかくだからみんなで写真を撮りませんか」
「お、いいですねぇ」
「せっかくですから、ラーメン屋さんで並んでるみたいに行列つくりませんか」
「ま、いいんじゃない」
「せっかくですからね! せっかく!!」
ようこそ山崎さんは「せっかく男」となってみんなを外へ誘導する。
そしてオープン前の行列をイメージして並ぶ。
つまりやらせだ(笑)。
が、これが、恐ろしいことにウソではなくなるのだ。
一気に8人の客がなだれ込み、大忙しのポポくん。
ホール係を担当するのは、「ようこそ」の店長・廣口さん。
地元のお母さんだ。
この日のポポくんラーメン。
鶏白湯のポタージュスープに焦がしネギ油とごまをトッピング。
一段とクオリティをあげているのだ。
評判は上々!!
自転車でひとりでやってきた地元の中学生。
来年から名張の高校に通うつもりだという。
こういうオトナの遊び的企画に真剣に参加し、そしてきちんと挨拶もできるし、すばらしい男の子だ。
わたくしはカンドーしたので、彼にラーメンをおごってあげた(笑)。
気づけば客席は満席!!
しかもあとからあとから続々とお客さんがやってくる。
そしてなんと!!
やらせではなく、本当の行列が「ようこそ」のまえに出現したのだ。
過疎の村で行列。
これはすごいことではないか。
愉快ではないか。
この日、限定50食のポポくんラーメン完食。
夕方、すべての仕事を終えたポポくんは、太郎生のみんなにニコリと笑いながら、愛車の軽トラで静かに町へと帰るのであった。