「熊野川パックラフト③〜そりゃないぜケロリン!」第561回サルシカ隊がいく

投稿日: 2017年05月29日(月)10:34

コバルトブルーの川に漕ぎだした。
いよいよパックラフトでの瀞峡(どろきょう)くだりがはじまる。

日差しは強く肌を刺す。
向かい風。
かなり強い。
水の流れより強く、ときおり船が後ろに押し流される。

漕ぎ出てすぐ瀞ホテルを見上げると、半ば朽ちた吊橋が見える。
吊橋の向こうにも建物が見えるが、離れの部屋でもあったのであろうか。
たぶん川を渡れば、県をまたぐことになるはずなので、離れの部屋は別の県に存在することになる。
それは面白いなあ。
ホテルなどで敷地が県をまたいでいる実例はあるのであろうか。

フネは、隊長のわたくしと中谷の父ちゃんがパックラフト(黄色いゴムボートね)、
そしてケロリンが組み立て式のファルトボート。

今回ケロリンはカメラ担当。
だからパックラフトよりスピードが出るファルトに乗ってもらった。
先にいって撮影したり、背後から撮影して追いついたり、と大変だからだ。

数年前、ケロリンはわたくしにレジャーカヌーをくれた。
相当古いポリ艇で、「もう使わないから」という話であった。
その口ぶりから勝手に、ずいぶんカヌーには乗ったが、もう子どもも大きくなったし、あまり乗ることもないだろうからもういいや、という理解をわたくしはしたのである。

が、いざカヌーに乗り込んでみると、ケロリンの様子がおかしいのである。
右へいったり左へいったり、フラフラしている。

くだりはじめにパックラフト2艇の記念撮影をしておこうと、ケロリンにお願いすると、先に進んだのはいいが、Uターンすることができずに、写真を撮ることもないままそのままどんどん漕ぎ進んでいってしまうのである。

さすがにおかしいと思って、ケロリンにカヌーの経験を聞いてみると、前に数回ちらりと乗ってみただけで、実質ほぼ経験ゼロ。
ある人からカヌーをもらったが、そんな状態だったので、そのままわたくしにくれたらしい。

「いやー、もう怖くて怖くて。
しかも全然まっすぐ進まないし、このフネおかしいんと違いますか」

おいおい早く言えよ。
メーカーの名誉のために言っておくが、おかしいのはフネでなく君の腕だ。

「は〜、もう疲れちゃったなあ・・・・。
腕がパンパン・・・。
もう岸にあがりたいなあ・・・」

まだ川に入って5分。
500メートルも漕いでいないのに、ケロリンはもうすっかり疲れ果てた顔でいうのだ。
確かに表情が普通ではない。
おびえた子鹿のような顔をしている。

「父ちゃん、大変だ、まだケロリンは写真を一枚も撮ってないよ」
「なんでカメラマンじゃなくてお荷物連れてきちゃったんだよ」
「だってカヌーくれるぐらいだから経験あると思うじゃん!」

中谷の父ちゃんとわたくしは水上で緊急会議を開催(笑)。
まあ今さら何を言ったところでもう漕ぎ出しちゃったんだからどうしようもない。

そもそもカヌーなんて5分もレクチャーを受ければ誰でも漕げるものだし、今から講習会をやろうということになった(笑)。

水深23メートル。
ときおりジェット船が激しい波をあげて通過する瀞峡にてカヌー教室開催なのだ。

「よしいいぞケロリン。
パドルを持つ手は肩幅より少し広めぐらい。
もう少しフネの先にパドルを入れて、後ろに漕ぐ!
右へ曲がるときは左を漕いで・・・・
左のときは右へ・・・・
回転のときは・・・・」

まさかこんなところでカヌーの基本的な漕ぎ方のレクチャーをするとは思わなかった(笑)。
不器用ながらも10分もぐるぐる漕いでいたら、ある程度上達してきた。
まあ、岸にのぼりたくても両岸とも断崖絶壁の大渓谷で、よじのぼるどころかフネを寄せることもできないのだから仕方ない。
上達してもらうより他にすべはないのだ。

なんとかカヌーの操縦も出来るようになって、ケロリン初のヘルメットカメラ写真(笑)。
ようやく腕時計型のリモコンのスイッチを押す余裕ができたらしい。

それから10分も漕ぐと、ケロリンはある程度自由に水面を動けるようになってきた。
まだ写真を撮影する余裕はあまりないようだが、ひとまず川くだりはすることができそうだ(笑)。

谷間を見つけると、すぐさまその中に入っていく中谷の父ちゃん。
よせばいいのにケロリンも思わずついていく。

ニマニマして戻ってきた中谷の父ちゃんに、

「本当に父ちゃんは割れ目が好きだなあ」

と、わたくしが笑うと、

「穴があったんだよ、ホントに!」

と、妙にコーフンして声をあげる。
まったくおろかな大人たちである。

まだまだぎこちないが、なんとかまっすぐフネを進められるようになってきたケロリン。
が、試練はこれからであった。

本日はじめてのウォータージェット船が到来!!!
「ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」とすごい音を立てて通り過ぎていく。

そのあとに扇形に広がる巨大な波。
それはだんだんと高くなりながら川の端に逃げたわれわれに襲いかかる。

「ケロリン、舳先を波に向けて! 怖いからって逃げちゃダメ!!」

わたくしと中谷の父ちゃんは波に向かってフネを進め、雄叫びを上げながら波を乗り越える。
少し遅れて、うしろから「いやあああああ」というケロリンの声。

なんとか沈(転覆)はまぬがれたらしいが、かなり危なかったらしく、まだ大きく揺れているフネの上で呆然としている。

「ケロリン、大丈夫か!」

返事がない。

「ケロリン!」

フト我に帰ったケロリンは、なんとかフネを漕いだ。

「いまジェット船がいったら、あと30分はこない。
今のうちに休憩できる河原を探そう!
そこでジェット船をやりすごせばいい!」

ケロリンは返事はしなかったが、パドルはしっかりと漕ぎはじめた。
ジェット船から逃れたい一心でひたすら漕ぐのだ。

が、その時・・・・また激しい音が聞こえた。

またもやジェット船が下流からやってきたのだ。
たぶん乗船客が多かったので、2便同時に出したのであろう。
わずか5分ほどのずれでやってきた。

それは、ようやく立ち直りかけたケロリンの気持ちをもろくも蹴散らしたのである。

無口になってフネを漕ぐケロリン。
はるか先に見える河原をめざしてひたすらに漕ぐ。

ジェット船はわれわれがフネに乗り込んだところで20分ほど停泊し、また下流へと戻っていく。
つまりまた2台が通過するわけだ。

ジェット船がくるまえに河原に到着できるのか!?
ケロリンの運命はいかに!?