写真/写真師マツバラ(松原 豊)
さあ、サルシカ銭湯企画。
松阪花岡温泉の第2弾である。
銭湯がテーマであるのに、なかなか銭湯に入らないのが、この企画の良いところであり悪いところである(笑)。
今回もまだ風呂に入らない。
もう駅から1キロほど歩いたであろうか。
松阪の町中に鎮座する謎の城を調査したあと、われわれはさらに西へと進み、旧街道へと入った。
江戸時代からの名残が残る古い街道を「寒い寒い」と言いながら歩く。
次なる目的地は、松阪にわずかに残された酒蔵のひとつ。
新良(にら)酒造である。
行き当たりばったりの企画とお思いでしょうが、実は最低限の下見をしているのですよ、ええ、責任者のケロリンが(笑)。
今回も1ヶ月ほどまえにケロリンひとりで実際にコースを歩き、ある程度のネタぼ目星をつけているのだ。
まあ、前回の城みたいに思いつきで動くのも多いのだけどね。
そんなケロリンが事前に仕込んでおいてくれたのが、この酒蔵探訪なのである。
古い街道を一歩入ったところに、こんな大きな酒蔵が広がっている。
いま松阪で酒をつくっている蔵は、ほんの数件しかない。
この新良酒造にしても、仕込んでいる酒の量は極めて少ないので、松阪の地酒を楽しめる機会は本当に少ないのだそうだ。
明治元年(1868年)の創業。
蔵元が杜氏を兼ねる自醸蔵である。
蔵元に案内をしてもらった。
「気温がぐっと冷え込んできたんで、明日ぐらいにも仕込みをはじめようと思ったんで、きょうはまだ準備だけやけど、そんなんでもええんかな」
頑固一徹。
妥協を許さず酒を作ってきた蔵元は言う。
酵母、米、水。
そしてこの蔵の柱や梁に住みついた蔵つき酵母(くらつきこうぼ)が、この新良酒造の味をつくる。
「できれば数日前から納豆を食べないで」
蔵元から事前にそう注意されていた。
納豆菌は繁殖力がつよく、酵母菌などを駆逐してしまうらしい。
「ボクの足の菌は大丈夫でしょうか。とても臭いんですけど」
と、ボーノーアナ。
みんなでよく足を洗ってから今回の企画に参加するように申し述べておいた(笑)。
まるで時間と空気が止まったかのような蔵の中。
懐かしい光景であるが、どこか緊張感がある。
これからはじまる酒の仕込みに向けた蔵元の思いであろうか。
仕込みのタイミングは気温。
蔵元が「ここ!」というタイミングを見計らって勝負する。
新良酒造は蔵元ひとりで切り盛りしている。
酒の仕込みのときなどは、仲間や友人が手伝ってくれるのだという。
「みんな、自分で仕込んだ酒を飲みたくてさ、あの1杯のためにやってくれてる」
酒を語る蔵元の表情はきびしい。
が、時折見せる笑顔が、少年のようである。
さらに奥にある麹室を見せてもらうことに。
日本酒をつくるには、広大な敷地と施設が必要なのである。
維持をしていくだけでも大変だ。
「これがうちで使う麹やけど、あんたたちは麹の役割を知っとるか」
蔵元にそう言われて、思わず「糖をアルコールに変える」と言ってしまったが、違うのである。
麹は米を糖に変えるのが役割。
その糖を酵母でアルコールに変えるのである。
そうかそうか、麹だけだと甘酒だあ。
2つの大きな変化があって日本酒はできるのであるな。
「麹を手にとって、口の中でよく噛んでみな」
口に近づけただけで甘い香りがする。
甘酒だ、と思う。
口に含むと、最初はあまり味がしないが、どんどん甘みが口の中に広がる。
新良酒造でつくるのは純米酒のみ。
明日から仕込む酒はどんな味、香りになるのであろうか。
出来たら買いに来よう。
蔵の出口に、20年以上の歲月を経た古酒が保管されていた。
「どんな味に変わるのか知りたくてね、おもしろ半分で保管してあるんだよ」
と蔵元。
こちらが、新良酒造の特別純米酒「夢窓(むそう)」。
あとで飲むために買い求めた。
楽しみだ。
「これから銭湯へいくんか。ええ仕事やなあ」
帰り際、蔵元はそう笑いながら、花岡温泉までの道を教えてくれた。
ありがとうございます。
また新酒が出来た頃に買いにきますので!
そしてわれわれは、いよいよ銭湯に向かって歩きはじめたのである。
協力:新良酒造
三重県松阪市大黒田町130