銭湯いこに Vol.06「富田・たから湯」

投稿日: 2010年12月09日(木)13:29


テキスト:ケロリン桶太郎 写真:松原豊(むらきよカメラマン)

富田のたから湯が11月いっぱいで閉店!
この衝撃的な情報が掲示板に寄せられたのが11月14日
それから私(ケロリン)の富田詣でが始まったのである。

11月21日
僚友神父と四日市で待ち合わせ、たから湯へ。
写真師マツバラから撮影のアポ取りという使命を背負ってである。

まず怪しまれないように、廃業のことから切り出したのはよかったが、おかみさんの思い出話しやらなんやら続く続く。
こっちはすでにズボンを脱いでパンツとスェットという姿であるにもかかわらず・・・(笑)。

・昭和27年6月に風呂屋を始めたこと
・伊勢湾台風で鋳物の煙突が割れて屋根に穴が開いて雨漏りしたこと
・今も煙突が割れて落ちてこないか心配していること(今も鋳物の煙突だそう)
・国道23号線の開通パレードに息子を連れて見に行ったこと
・そのとき河野一郎議員(現衆院議員河野太郎のおじいさん)を見たこと
・ご主人は無類のキレイ好きであること
(奥様はそこまでキレイにせんでもええやんか、と思っているらしい)
・親戚があさひ湯という銭湯をやっていてその流れで銭湯を始めたこと

などなど。

おまけにお客さんから私のホームページを印刷したものを見せられたらしく、そんなこんなでスンナリ写真撮影の許可をいただくことができました。

11月25日
たから湯撮影日。
写真師と近鉄電車で富田へ。

約束の時間まで時間はたっぷりある。
富田の漁師町を散策し、東海道沿いの喜楽湯、すでに廃業になったJR線路沿いの富喜湯、などの撮影をしていく。

写真師マツバラとケロリン。
同級生であるこの二人が揃えば、そう昼からビールである。
昼ビールが喰らえる店を探す二人。

すると富田一色のわずか数百メートルのメインストリート(浜省の歌は脳裏をかすめもしなかったが)に、お好み焼き・やきそばの暖簾を発見。

そういえば白塚編のときも隊長を待たせてまでお好み焼きを食ったなあ、などと
前回と同じ展開に嬉々としてのれんをくぐると・・・

そこは年季の入った鉄板にお好み焼きが8枚並び、病院の待合のごとくお年寄りが持ち帰りの焼き上がりを待って座っているではないか。
しかも焼いているのはかつてはこの町のマドンナとも呼ばれたであろうお姉さまと、大姉さまのビューチーペア~。
二人は心の中で「今日で自信から確信に変わったと思います」とイチローから初三振を奪った松坂の言葉を引用しつつ自らの嗅覚に確信を得て、メニューを眺むれば、お好み焼きがナント一枚130円。
今どきワクどき!130円なんて、ジャンプもサンデーも買えやしない価格に、こりゃビールがたらふく飲めるわい、となるのは想像に難くないなりゆきなのであった。

食べたもの
おでん こんにゃく、牛スジ、すり天など
お好み焼き 一番高いやつ(400円未満)
焼きそば 

毎度いつものことながら、何が目的なのかわからなくなって来る。この感覚こそ昼ビールの醍醐味なのだ。

店を出て富田の港を散策しぶらぶら待ち歩きをして、いよいよたから湯さんの撮影である。

暖簾前の時間にお邪魔し、写真師渾身の大判撮影。
いつものことだがこの大判カメラこそが被写体への説得力を生み出し、良い写真が撮れるのだ、と写真師を持ち上げておこうと思う。


写真:ケロリン

ケロリンはその横でチョロチョロと撮影したりお話しを聞いたりという、アライバのごとき連携プレーであっという間の撮影終了。
わけわって写真師にはありえない超スピード撮影となりました。

それでもたから湯開店まではたっぷり2時間。

ついでといっちゃあなんだが、富田浜まで足を伸ばしてソー○ラ○ドを遠巻きに見て内部に思いをめぐらしたり、製網工場跡のレンガ塀を眺めたり。

それでも時間が余って、次回の富田ツアーの下調べと称して富田一色の大黒湯で軽く一っ風呂。

さらには東富田の鈴木湯ではご主人に釜場を見学させていただくハッピーな偶然もあり。

あたりが暗くなった6時前にようやくたから湯に浸かることができました。

11月30日(たから湯最終営業日)

残業を終えてヘトヘトのケロリン。美里からぶっ飛ばして来た写真師、なんと敦賀出張を早々に済ませたきた神父。
たから湯最後の湯はこの厳かな3人でお邪魔しました。断っておきますが今回ばかりはビールはございません。

玄関には風呂の匂いをさせて出てくる主人を待つ犬。
いつもの牛乳石鹸版ではな屋号が染め抜かれた暖簾。
その暖簾も我々が撮影を終えた頃に下ろされて。
出てくる先客は奥様と別れを惜しみいつまでも話しに花が咲いている。

奥様に会釈をし男湯に入ると先客が数名。
我々のあとで入って来られたこれまたカラフルなお客は入ってきたと思ったら猛スピードで出て行かれ。
子供の頃から入り続けてきた銭湯に仕事の途中で別れを告げに来たのだろうか。

いつもよりゆっくり湯に浸かり、それぞれが想いをめぐらせていると、ご主人がお風呂に入りに来られ。
一見である我々はおいそれと声をかけることもできず、ただ風呂上りに礼を告げて。
我々全員が出たあとには、桶を片付け、湯を汲んで鏡に湯をかけ。
来る日も来る日もこうやって最後に入っては風呂掃除をしていたのでしょうか。
そんな掃除も今晩で最後。
明日には神主さんにお祓いをしてもらってすぐに取り壊しが始まるそう。

お世話になった奥様を最後に写真師が撮影。お別れを言って、最後の日の最後の
客になった3人はたから湯を後にしたのです。

振り返ると電気が消えていました・・・。

これでまた三重県から銭湯の灯が消えました。