銭湯いこに Vol.07「伊賀・一乃湯」

投稿日: 2010年12月29日(水)12:20

文:ケロリン桶太郎 写真:松原豊


今回、訪ねたのは、オリジナリティーとクオリティーな銭湯「一乃湯」!

海に潜り川に飛び込み山海の旨い物を喰らう、そんな三重県の遊びフィールドを発信するサルシカはどこへいっていもたんや?
とお嘆きの貴兄はいらっしゃらないとは思いますが、銭湯シリーズは回を重ねていくのである。

シリーズ第5弾。
寅さんで言えば第5弾のマドンナは長山藍子。
渡鬼の長女で知られる藍子さんも当時は若くてピチピチ。
ほんならサルシカ銭湯部会にもマドンナ登場とは行くわけがおまへん。
隊長! 女湯のレポートもそろそろしてかなあかんのでよろしくお願いします!




~前置き~

今回は銭湯シリーズ初の伊賀進出。
県外の方に伊賀市と問えば、俳聖芭蕉、忍者屋敷、上野城、伊賀牛、忍者電車の伊賀鉄道、組紐、豆腐でんがく、バクハツするるみ子の酒、マニアックなところでは西岡たかしのローカルヒット曲「上野市(うえのまち)」などがあげられるのでしょうが、銭湯を愛する私にとって、伊賀市、いや旧上野市といえばなんといってもレトロ銭湯の町なのですよ。(本当は丁稚ようかんも好きだったりするのだが)
今でこそ5軒まで減ってしまいましたが、私が銭湯めぐりをし始めた2002年には9軒、さかのぼって昭和49年には18軒、最も多かったときは20軒あったと記録されています。

今回そんな伊賀の銭湯にサルシカ一行で足を運ぶきっかけになったのが、神父やなさんの行動力と人柄と絵心だったのです。




一乃湯のご主人「中森秀治さん」は一乃湯の前進である草津湯を買い取って経営を受け継いだ祖父の代から数えて三代目。

いざ引き継いだはよいがどうしたら客を呼べるか。
客は一日数十人。
ほとんどが徒歩圏内のお客。
我々が想像していたより若い客も多いそうだが、いつもきていたお客が病気になったり亡くなったり。
そうやって常連と呼ばれる客層は今後も減少し続けていく。

幸い全国有数のレトロ銭湯として銭湯写真集にも掲載されたこともあり一部のマニアや出張で近所のホテルに宿泊しているいわゆる一見さんはちらほら増えはしたが、この商売はいかにリピーターを増やすかが最大のカギになってくる。

そこでご主人。
奥さんを連れて京都の船岡温泉、東京の大黒湯などの全国に名を馳せる銭湯を見学しに行って銭湯を研究。
まず手始めに脱衣所が見通せる番台の手前に仕切りを増設。
よくあるフロント形式に改装するのではなくあくまで番台にこだわった結果である。
これで自分が番台に上がるときにも女性に気兼ねなく着替えてもらえるようになり。




次に自分の銭湯の売りはやはり「レトロ風情に尽きる」ということで、粗大ゴミの日やご近所の電気屋からレコードプレイヤーやラジオを集めて脱衣所に展示して。
また勝新などの映画のポスターや天神祭の山車が写った昔の絵葉書を貼って。
ついには丸ポストを玄関先に立ててレトロ感を前面に押し出すことに。




また浴場には銭湯には欠かせない富士山のタイル絵をはめ込みくつろぎも演出。
もちろん飾りだけではなく、銭湯はこうあるべきを実践し「キレイなのはあたり前」であることを追求。
浴場から脱衣所まで徹底的に掃除をして気持ちよく利用してもらえるようにしているそうです。




ところが前出の通り客足は伸びず悩んでいたところ、上野の天神祭見物の帰りに立ち寄り帰ろうとしていた、やな神父に奥様が玄関外まで出てきて声をかけ。
「お見かけしたところかなりの銭湯通とお見受けいたしました。どうかわたくしどもの銭湯にご意見をいただけないでしょうか?」てな感じだったのでしょう。
その後奥様はご病気でお亡くなりになりましたが夫婦で一乃湯を盛り立てていくという気概が起こした行動が今日の我々との出会いをプロデュースしてくれたのは間違いのない事実です。


  《一乃湯のご主人、やな神父、ケロリン


ここからご主人とやな神父のコラボレーションが始まったのです。
ご主人「せっかく5軒も銭湯が残っているのだから、共存共栄できる何かができないでしょうか。ウチだけじゃなく5軒がみんな客が増える何かできないでしょうか?」
やな神父「各地の浴場組合で配布されているような、銭湯マップを作ってみたらどうですか?」

イラストが得意のやな神父は各銭湯を絵におこして。
ご主人は商売仲間のご主人に提案して協力を求めて。
二人の銭湯への情熱が実現するのも来年早々のことだそうです。

さらに人の輪はさらなる輪を呼び、ついには私ケロリンもやな神父からご主人を紹介していただき、さらに今回このようにサルシカ銭湯部会がお邪魔することになったというわけであります。


~訪問記はじまり~

この日はあいにく今年一番の冷え込み。上野の街にも雪まじりの雨がぱらぱらと降ってきています。

3時半の約束までまだ時間があるためいつものように市内をぶらぶらしながらその他の銭湯の写真を収めて行きます。




2007年9月末に廃業された池田湯はつい先日解体され更地になってました。




旭湯はなんと2時から営業しています。(看板には3時からと書いてありますが)




2007年11月14日に廃業された桑町温泉は立派な煙突が残っています。




池澤湯はご主人が体調を崩されたそうで最近まで休まれてましたが、こないだ再開されました。
ここには県内唯一のペンキ絵があります。

※このほか市内には太陽温泉、丸万温泉の計5軒が盛業中です。

ほかにも元散髪屋、町の集会所などノスタルジックな建物の撮影を繰り返しながら約束の時間に訪問となりました。




まずは写真師の撮影タイム。
この日はお休みだったので暖簾を出してもらってネオン管の照明をつけて。
間違ってお客さんが入ってこないだろうかと心配になりましたが無事撮影終了。

つぎにこの日の第一の目的である銭湯お掃除隊の登場。
わざわざお休みの日にご対応いただきお風呂までわかしていただいたご主人への感謝の気持ちとしてせめてものお礼としてお掃除させていただくという次第です。




手始めに給湯システムの説明をいただき、各バルブを開放、塩素薬を注入し、ボイラーに点火。
お聞きすると上野の銭湯は、ボイラーによる湯沸しが一乃湯だけ。
廃油再利用が一軒であとはおが屑や材木でわかしておられるとのこと。
A重油は屋外のタンクからボイラー室の200リットルのドラム缶へ給油され、一日平均70リットル、多い日では100リットルが消費されるそうです。
1リットルおよそ100円なので燃料費だけで7000円が日々のランニングコストとしてかかってくる計算になります。
ボイラー室にはお元気だった頃の奥様の写真が微笑みかけています。
心の中で奥様に感謝し掃除にとりかかります。

といってもほとんどの掃除は前夜の営業終了後にご主人がされていますので、我々はあくまでご主人のご指導のもと風呂掃除とはなんたるかを教えてもらうことに。




まずは掃除するところに水をかけ、散布ポンプで薬品を噴霧していきます。
次に薬品を噴霧したところからブラシがけです。
ブラシがけと言っても、用途に応じてブラシを使い分けなくてはなりません。
床には幅広のデッキブラシを使用。
ご主人曰く普通のデッキブラシより幅が広いこのブラシが使い勝手がいいとのこと。
排水溝には柄のついたハンディタイプのブラシを。
目地やカランなどの金属部分には大型歯ブラシのようなものをそれぞれ使用します。




どの仕事も中腰で作業するため腰にかなりの負担がかかります。洗剤のため床は滑りやすく油断すると転倒する恐れがあります。
そんな不慣れな環境の中、掃除に熱中する3人のオヤジ。
最初は戸惑っていたものの熱中するあまりやがて無言になりひたすら磨き擦り時間は過ぎていきました。




~宴会のはじまり~

軽く喉が乾いてきたところで掃除も終わり、脱衣所にテーブルのセッティングです。
今回は銭湯を経営者のナマの声をお聞きしたくてご主人を居酒屋にでも連れ出そうと企んでいましたが、聞けばよく友達を呼んで脱衣所で宴会をされているそうで脱衣所での飲み会となりました。




ご主人の指示のもとテーブル、丸ストーブ、長椅子などを男湯の脱衣所に集めて、BGMはデジタルな時代なのにご主人選曲のレコードが流れ。銭湯の脱衣所だけでも非日常の空間なのに
そこでお酒を飲めるなんて銭湯好きにはたまらないシチュエーションです。




酒のアテはご主人が注文してくれていた、上野では有名な洋食屋いとうのオードブル。
いとうと言えば隊長も隊長の奥様M子さんも、そして私もリスペクトする、おしゃれな外観には不釣合いなガテン系があしげく通うボリューミーな洋食屋さん。
そこから運ばれてきたオードブルが脱衣所で食べられる。
何度も繰り返しますが、レストランいとうの味を銭湯の脱衣所で食べ酒を飲む。
これ以上の幸せなど存在するのでしょうか!!!!!




時間は午後6時過ぎ。
隊長ご一行が来るまでまだ2時間もありまして、もちろん一同待ちきれずカンパイとなってしまうのですよ。
補足しておきますが、脱衣所のテレビにはもちろんワクドキ。
ブラウン管の向こうの隊長をよそに銭湯にまつわる濃密な時間はゆっくり過ぎていくのでした。




~隊長到着~

ワクドキが終わった一行が到着。
スズキックス隊員もイワワッキー隊員も到着。
そしてサルシカ隊を取材する新聞屋の記者さんとカメラマンも到着しいよいよ本番がスタート。




お気づきかもしれないが、この日のサルシカ隊は一乃湯さんを取材。
そのサルシカ隊を新聞屋が取材。
サルシカ隊銭湯部会の撮影は写真師マツバラ。
その撮影風景をさらにうしろから撮影するのが新聞屋のカメラマン。




なんのこっちゃわけがわからん、と思っているのは我々よりもご主人だろうなあ。

さらに新聞屋に同行してきたカメラマンが写真師マツバラがカメラマン養成学校で教鞭をとっていた頃の生徒で。
偶然の再会もミックスされ一乃湯の夜は更けていくのでありました。

そんなわけでみんなが集合したところでメンバー全員で再び銭湯掃除。
先行の3人が指導役にまわってこんどは男湯をゴシゴシ。
その風景を写真師マツバラが撮影、そのうしろから新聞屋が撮影。
掃除隊は二人のカメラマンから細かい注文を受けながら。




掃除風景の撮影が終了し全員で入浴タイム。
しかもご主人にも一緒に入ってもらっちゃって。
しかもしかも入るのは女湯。
単純且つ純粋な少年の心を持つサルシカ隊一同からは喜びの声に混じって恥じらいの声も。なぜか堂々とフル○ンできない、そんな気分・・・。

お気づきかもしれないが取材は継続している。
しかも湯気でレンズが曇り、見通しが悪くなるというカメラマン泣かせの悪環境。
写真師が撮影し湯気が邪魔になっていないか確認し、これを数カット繰り返し。
この風景をうしろから新聞屋カメラマンが撮影し確認。

湯船で茹で上がりながらOKの声を待つサルシカ一行。
これも湯上がりのビールのため、などと考えられるわけがなくひたすらエセ笑顔の花が咲き続けて。




やっとのことで撮影が終わりまたまた脱衣所に戻ってレストランいとうのオードブルに舌鼓。そして銭湯をお題にした話はさらに白熱し。

前出の通り、銭湯経営を引き継いでトライした数々の集客戦略のこと、試行錯誤の結果、目指すところをレトロに設定したこと、一乃湯と市内の銭湯の置かれている現状、やな神父との出会いのエピソードと銭湯マップのこと、
などを熱く語ってくださいました。

ほかにも・・・
三重県の銭湯価格が380円に引き上げられた今でも上野市内の銭湯が350円にしているのは、たった30円の値上げでどれだけたくさんの常連さんを困らせることになるのか、と考えたとき
上野市銭湯組合として350円に据え置くことを決めた。たかが30円、されど30円である。
常に清潔な状態を維持するのはこの商売として当たり前のことでお客様から貴重な湯銭をいただくためには高いクオリティーを維持しなければならない。

要するに・・・
オリジナリティー(レトロ調への舵取りと差別化)とクオリティー(清潔さを徹底的に追求)の理念に基づき一乃湯を引き継いだ者として日々努力しておられるそうです。




銭湯を愛するご主人と銭湯大好きなサルシカ銭湯部会の、濃くて熱くて激しいトークバトルは深夜まで続き、一乃湯さんを後にしたのは日付が代わる直前となりました。


お休みの日にもかかわらずわれわれの訪問を快く受け入れてくださるだけでなく、お湯まで沸かしていただき深夜まで語らっていただきほんとうにありがとうございました。
上野銭湯マップの成功を心より祈っております。われわれも全軒湯破の記念品ゲットを狙います!



一乃湯
伊賀市上野西日南町1761
電話 0595-21-1126
【営業時間】16:00~23:00
【定休日】木曜日