第24回「隊長、ステンドグラスに惚れる」(熊野)

投稿日: 2011年12月15日(木)22:58

提供:ゲンキ3ネット

ついに熊野シリーズ完結!
丸山千枚田にあるオートキャンプ場・・・・そこで光り輝く出会いがあった!!




日本の棚田百選にも選ばれる、熊野市紀和町の「丸山千枚田」は雨だった。

サルシカ隊長のワタクシ、実は丸山千枚田を見るのは生まれて初めて。
近くまでは何度も来ていたものの見る機会に恵まれなかったのだ。

千枚田を一望できるスポットで写真を撮影するワタクシ。
が、あっという間に谷から雲がはいあがってきて、階段状の田んぼは白く覆われていく。


なんとも幻想的。
千枚田の全景は一瞬しか見られなかったけれど、これはこれでラッキーだったかも知れない。
あたりが真っ白になったところで車に乗り込む。
次の目的地はこの千枚田の下にある。

真っ白で何も見えない千枚田のくねくね道を下りながら、同行のカメラマン「写真師マツバラ」は話しはじめたのである。

「今からお邪魔する東さんはステンドグラスの作家さんなんですけど・・・台風12号で家を流されてしまって、娘さん3人とキャンプ場で暮らしているんですよ・・・」

いきなり衝撃的な話である。
キャンプ場でステンドグラスの制作や体験教室も再開しているらしいが、
いろいろと大変であろう。
不便もあろう。

さて、会ってまず何から話せばよいのか・・・考えがまとまらないうちにそのキャンプ場に到着した。



千枚田オートキャンプ場。

HPを見ると、

「熊野市 丸山千枚田の麓にあり、三重県、奈良県、和歌山県の県堺に位置することから、熊野古道観光にとても便利な場所にあります。
豊かな自然の中で、釣りやカヌーの川遊び、古道歩きやパラグライダーの拠点として、ジェット船やトロッコ、水晶やガーネット等の鉱石を探して探索する等、様々な楽しみ方が可能です・・・」

と、ある。

管理棟は大きく、キャンプサイトはきちんと手入れがされている。
バンガローもあるし、ランドリーやシャワールームも整った高規格キャンプ場である。

さてさて・・・。
このキャンプ場のどこで生活し、仮の工房があるのか・・・。
それらしき建物が見当たらず管理棟を訪ねると、そこが仮の工房であった。



管理棟内にあるホール。
ここが仮の工房になっていた。
広い空間である。
天井も高い。

しかし何より驚いたのは、案内をしてくれた東由紀子さんの魅力的な笑顔と明るさだった。




東由紀子さん。
長崎県佐世保市出身。
家族で熊野市に移り住み、現在は娘さん3人と暮らす。
途中いろいろあったようだが、まあそのへんは大人の事情であるからして詳しくは述べない。

「本当にあっという間に家が水に浸かってしまって・・・最初は避難所にいたんですけど、すぐこのキャンプ場に移ることができて・・・」

東さんはこのキャンプ場の管理人をやることを条件に管理棟を使わせてもらっているという。
寝泊まりは施設のバンガロー。
ランドリーもシャワーもあるが、やはり何かと不便があるのではないだろうか。

「いえ、それが全然!こんなこと言ったら怒られるかもしんないけれど、ここってすごいステキでしょ? これまで暮らしていた家より全然豪華だし、広いし、薪ストーブまであるし、本当にありがたいなあ、と思って!」



薪ストーブの上に純和風の鍋。

「いつもおでんとか煮てるの。すごくいい匂いだけど、この洋風の雰囲気は台なしよね!」

東さんは本当に楽しそうに笑う。

隊長「お嬢さんたちはここの暮らしに慣れたんですか?」

東さん「多少の不便はあるでしょうけど、楽しんでるみたい。このあいだも学校の友だちとバーベキューをしたりして楽しんでたし・・・遊ぶには最高の環境よね」

た、確かに・・・。
それにしても女性は強い。
いや、東さんが強いのか。

暮らしていた家が水に浸かり、家財道具を失って、ワタクシならここまで笑っていられるだろうか。
まず苦しさが口に出ないであろうか。



「私はなぜ今、熊野にいるんだろうって思うこともあります。
なぜ家を失って、キャンプ場で生活してるんだろう。
でも仕事もなんとかあって、こうして楽しく生きていけるんだろうって・・・。
私、友だちに言われるんですよ、いっつも波乱万丈よねぇ、って」

また笑顔。
しかも少女のように屈託がない。



これは体験教室のお客さんがつくったステンドグラス作品。
ここでステンドグラスの制作体験ができる。
難しくはないらしいが、結構時間と根気がいるようだ。

東さんの作品は基本的に受注生産。
依頼を受けて作った作品を公共の施設や病院に納品している。



ステンドグラスとの出会いは・・・?

「まだ九州にいる頃に、家のそばでステンドグラスをやっている人がいたんですよ。
話を聞いたらなんかピンとくるものがあって、すぐさま体験させてもらったら、もう思い切りはまり込んでしまって・・・・以来ずっと・・・まさかそれで生計をたてるとは思いませんでしたけど(笑)」



この先・・・どうされるつもりですか・・・?

「うーん、ここにずっといられるならそれもいいけど、そうもいかないと思うので・・・この近くに本当に小さくていいから家がつくれないかなあ、と思ってます。
全然具体的な話じゃなくて、あくまで夢ですけど・・・」

またまた笑った。
たぶん、彼女はいろんな色の夢をステンドグラスのようにつなぎあわせていくだろう。
そしてひとつの形にして、その色合いでみんなを驚かせるに違いない。

ワタクシもがんばろう。
そんな勇気を得て、写真師と共に熊野をあとにしたのであった。











写真:松原 豊    文:奥田裕久