提供:ゲンキ3ネット
四日市から内部をつなぐ路線距離わずか7キロのナローゲージ(特殊狭軌線)、近鉄内部線。
その小さな電車は、立ち並ぶ家々のあいだを、田園風景の中を、学生鞄をもった若い男女や買い物かごをもったおばあちゃんを乗せてトコトコと走る。
今回はこの内部線を完全制覇!! ひたすら電車に乗って歩く!!
四日市と内部をつなぐわずか7キロのナローゲージの旅。
追分駅でわき水の源泉の謎を追い、内部線への愛情がつまったランチを食べ、お隣の泊(とまり)駅へとやってきた。
内部線は完全ローカル線でありながら、30分に1本ぐらい電車が走る。
なかなか便利なのだ。
泊駅を出て少し歩くと、またもや東海道に出る。
内部線の旅は東海道の旅でもあるのだ。
泊には目的地があった。
追分のモンヴェールの奥さんが、「泊にいくならぜひ寄っていって」と教えてくれたお店があったのだ。
伊勢茶製造直売の山中茶舗。
創業50年。
量り売りで100グラムから販売してもらえる。
しかし四日市の人には、四日市市内の朝市でなじみのある店のようだ。
下記のように、もうほぼ毎日朝市に出店している。
毎月1・3・6・8が付く曜日(例:1日、11日、21日) 塩浜市場
毎月2・7 高花市場
毎月4・9 阿倉川市場
毎月1・6 笹川市場
毎月4・9 日永市場
毎月5・10 追分ショッピングセンター
毎月3・8 坂部市場
店内には甘く香ばしいお茶の匂いが漂っている。
取り扱っているのは、もちろん地元のお茶。
四日市は水沢に代表されるようにお茶の産地でもあるのだ。
そもそも三重県は、日本で静岡、鹿児島に次いで3番目の産地であることも知られていない。
毎日呑むお茶こそ、大切にしたいものだ。
「じゃあ、極上のお茶をお煎れしましょう」
いいお茶は色からして違う。
雑味が出る茎の部分などを手作業ですべて取り去り、良質の茶葉のみを残したものをいただく。
お湯の温度は60度から70度。
最後の一滴まで急須から振り落とす。
この一滴にうまみが凝縮されているのだ。
あまくなめらか。
うまみが口の中でひろがる。
普段呑んでいるお茶とはまったく別の、異質の飲み物である。
まさに一服のやすらぎを得るために、この1杯は存在している。
デザイナー前川、まだいました(笑)。
仕事をせんでいいのでしょうか。
ま、彼の住まいもオフィスもこの泊にあるので、彼の庭にお邪魔している訳であるのだが。
東海道を歩く。
本当は四日市方面に向かうべきなのだが、来た方向の内部方面へ。
山中茶舗からほんの少し歩いたところに、みそとしょうゆの老舗があり、その店主とは「PTAでいっしょに活動してるんでよく知ってるんですよ」とデザイナー前川が申し出たのである。
もはや彼のご近所探訪ツアーみたいになってきた(笑)。
行き当たりばったりでなんの計画も立てずにはじめた旅だが、いつのまにかなんとかなってしまっているところが恐ろしい(笑)。
そのお店は、伊勢藏。
店舗部分は新しく改装され、高級感がただよっている。
そしていきなりの訪問にもかかわらず、迎え入れてくれたのが、5代目店主「式井康裕」さん。
「売れ筋はやはり赤ですね。
三重は赤、白、ミックスと、さまざまな味噌文化がありますが、
やはり四日市は赤だと思います」
そういって見せてくれた味噌は、とてもつややか。
芸術品のような美しさである。
「蔵の方もごらんになりますか?」
おおお、願ってもないことである。
店のすぐ裏手が蔵であった。
巨大な倉庫のようである。
蔵の中は甘く濃厚な匂いが充満していた。
まるで小屋のような巨大な樽がいくつも並んでいる。
かなりの年代物もありそうだ。
発酵をうながすため、味噌を撹拌する。
重労働だ。
「これ、落ちたらヤバイですね。落ちたことあります?」
ワタクシのアホな質問に若き主は笑いながら、
「私はまだ落ちたことがありませんが、実際に落ちた人の話だと、ズブズブと沈んで抜け出せないそうです。
下手をすると死にますね」
ひいいいい。
主と共に樽のうえに上っていた写真師マツバラが声をあげてカメラを抱えた。
樽の中にカメラを落としたりしたら、味噌が完成するまで引き上げることはできない。
哀れ、味噌漬けのニコンカメラが出来上がってしまうのだ。
若き5代目は、古き伝統をしっかりと守りながら、あすの商売を見つめる。
変わらないこと。
変えること。
それを見極めることが大切なのだ。
それは内部線の未来にも当てはまると思った。
内部線の旅はつづく。
次は南日永。
ここに古き良き日本の「風」がある。
電車を待つ泊駅にも、さわやかな風が吹いていた。
写真/松原 豊