「そろそろ隊長、アレいきましょか?」
もはや説明の必要がないであろう、行きつけの割烹やまきのカウンターで、
土瓶蒸しの注ぎ口から突き出た三つ葉の茎をほじほじしていると、大将のやまちゃんが話しかけてきたのである。
アレとはアレである。
実はやまちゃんはマツタケとりの達人なのである。
その昔、1日で数百本を採ったこともあるという、冗談みたいな達人なのだ。
で、昨年、やまちゃんといっしょに山に入り、さまざまなキノコをどっさり、
そしてマツタケを2本、しっかとゲットしたのである!!
「最近M子さんさあ、サルシカで『めぐみごはん』ってはじめたけど、やっぱり秋の味覚の王様をとらなアカンでしょ」
と、笑うのである。
M子の『めぐみごはん』にマツタケ!!
おおおおお、サルシカも立派になったもんだ!
よし、行こう、ということで、伊賀の『るみ子の酒』をおかわりし、どんなマツタケ料理をつくるかで大いに盛り上がったのである。
そして10月中旬のある朝。
まだ夜が空けて間もない6時半まえ。
大将のやまちゃんと隊長のワタクシは、伊賀市のとある山にいた。
あれほど「マツタケ!マツタケ!」と盛り上がっていた妻M子の姿はない。
「そこんところは男同士で頼む!」ということで、まだ温かい布団の中の人である。
つまり、
大将やまちゃんとワタクシは、妻M子の『めぐみごはん』のために山に入るのである。
おいしいところは企画的にも味的にもすべてM子に持っていかれるのである。
「なめとんのかあ、オラァア!」
と、叫んでみるが、それは悲しく夜明けの空に吸い込まれていくだけなのであった。
昨夜までかなりの雨が降っていたので、足元はぐちょぐちょ。
かき分ける枝葉が濡れているので、腕や肩がどす黒く湿る。
今回のターゲットは、
マツタケとさまざまなキノコ、そして秋の味覚もろもろである。
「どーんとM子さんに持って帰ったりましょ」
と、やまちゃん。
心強いのだ。
が、なかなかきのこは見つからない。
10月中旬になっても気温が落ちないせいであろうか。
ちょっと不安になってくる。
しばらく歩いて、ようやく「すどうし」発見。
「すどうし」とはアミタケのことであり、ワタクシでも見分けることができる数少ないきのこの1つである。
少しヌメリがあって、おひたしや吸い物にするとおいしい。
ぽつりぽつり見つけるものの、昨年に比べると圧倒的に数が少ない。
山が荒れてきたせいで、きのこは本当に減ってきているそうだ。
悲しいことだ。
そんな時、やまちゃんが「よし、あった!」と声を出す。
「え、あったんですか」とワタクシ。
「あったよ」とやまちゃん。「写真撮るか、隊長?」
「撮る撮る、で、どこ?」
「そこ」
「どこお?」
「そこお!」
これは限りなくリアルなやりとりである。
落ち葉の衣をまとったマツタケさんは、まわりと完全に同化していてなかなか見分けがつかない。
それを歩きながら見つけるなんて、やまちゃんの目は少しばかりおかしいに違いない(笑)。
やまちゃんに松の枝を払ってもらってようやく発見、
そして写真撮影に成功したマツタケ。
小学生のポコチンぐらい。
それが1個に、もう少し小さいのが2個あった。
小さいが、採ってみると、あたり一面にマツタケの香りが広がる。
すさまじい香りのパワーである。
「ま、小さいけど、とりあえずは採れたでな。いやあ、ホッとした」
でも出来れば、もう少し大きいのが欲しい・・・というわけで、ひとつ目の山を離れ、続いての山へと向かう。
2つ目の山も、やまちゃんがずっと通い詰めるところである。
勝手知ったるとはこのこと。
藪の中を歩こうが、木々の間を抜けようが、自分のいる位置がわかるらしい。
去年はこの山でクリタケを山ほど採ったのだ。
「去年はこのあたりにクリタケがいっぱいなっとったんやけど・・・ないなあ」
やまちゃんは斜面を滑るように下りながら、あたりを見ていく。
そして・・・「お、あったあった。こんなところにおりよった」。
クリタケの群生。
こいつは少しずつ位置を変えて群生するらしい。
昨年あった場所の周囲を探せばいいのだ。
群生は楽チンでいい。
どんどん採れる。
クリタケは歯ざわりを楽しむきのこである。
すき焼きにいれるとうまい。
が、全体的にもろいきのこなので、乱暴に扱うとすぐに壊れてしまう。
慎重に慎重にスーパーのビニール袋へと入れていく。
すぐさま袋はいっぱいになった。
そしてワタクシがクリタケを採るのに夢中になっていると、
やまちゃんが再び見つけた!
「今度は大きいし、わかりやすいところにあるで。ほらそこ」
「どこ?」
「そこ!」
「どこぉ!?」
素人の目には本当にわからんのだ。
写真に写っているのが、みなさんにはわかるであろうか。
まだ見えない、というみなさんのために、
枝葉を払ってご開帳!!!
立派です!!
出ました!!
やまちゃんの「どや顔」です!(笑)
それにしてもデカイ!!
長さ20センチはある!
ワタクシのより(笑)、間違いなく立派だ!
「これはビックリやわ~、こんな見えやすいところにこんな大きいのがあるなんてなあ!」
さすがのやまちゃんも驚いていた。
最近、あまりにきのこが採れないので山に入る人も激減しているらしい。
だからこんなラッキーなこともあるのであろう。
すぐそばにもう1本マツタケがあったが、誰かに踏まれて潰れていた。
たぶん・・・いや、間違いなく、ワタクシが踏んだのであろう。
悲しい。
が、それもしっかり採って帰る(笑)。
6時30分に山に入って3時間が経とうとしていた。
全身ドロドロ。
足も棒のようだ。
というわけで、
やまちゃんお手製のお弁当!!
昨夜、店の営業を終えてからつくってくれたそうだ。
高菜で包んだごはんが果てしなくうまい!
山の中で静かに食べたかったが、
下が濡れているので道路脇で食べる。
が、通りすぎる車はまったくいない。
こんなに楽しく遊ばせてもらって、しかもおいしいものがゲット出来るなんて、
山サイコー!!
田舎暮らしバンザイ!!
なのだ(笑)。
メシを食ったらもうひと働きなのだ。
津の方へ戻る道中で、自然薯のツルを発見し、芋掘り!!(笑)
果てしなく太いツルで、果てしなく巨大な自然薯が出てきたのであった。
しかもそのツルにはムカゴが鈴なり!
やまちゃんが車に常備している傘を逆に開き、ツルを無闇に引っ張ると、ボタボタとムカゴが落ちてくる落ちてくる。
ついでにワタクシの頭の上にも落ちてくる。
わずか15秒で収穫終了なのだ。
で、今回の全収穫は・・・・・こちら!!
マツタケ大小5本。
すどうし、いっぱい。
クリタケ、いっぱい。
自然薯、巨大なの1つ。
ムカゴ、いっぱい。
すんばらしい秋のめぐみなのだ!!
しかも!!
「今回は全部隊長とM子さんにプレゼントやから!」
と、やまちゃんは爽やかに笑い、スズキの軽ワゴンに乗ってさっそうと去っていったのだ。
「ありがとう、やまちゃーーーん!!」
が、M子が見ていたのは、走り去る軽ワゴンの後ろ姿ではなく、
これだった(笑)
これらの食材を使った「めぐみごはん」はこちら!!
セットで読んで楽しんださいませ!!